暴走した彼を止めるのは、本当に至難の業・・?











あまえんぼう










今日も今日とて黎深、鳳珠、悠舜の三人は邵可邸へ来ていた。

「あああっっー!!」

突然の奇声に、庭の鳥たちが一斉に飛び立った。


「鳳珠、貴様!!」

奇声の主、紅黎深は小さな子供を膝に抱き上げた鳳珠を震える指で指し示した。

「ききき貴様っ・・しゅーれいを!しゅーれいに何をしているんだ!?」
「何?座らせているだけだろうが」
「その場所が問題なんだ!!」
「膝がか?悔しかったらお前もしてみろ」

さらっとあしらわれ、黎深はぷるぷると唇を噛み締めた。
おのれ鳳珠。
いつもいつもいつもいつもっ!!
膝の上で可愛い姪がご機嫌にはしゃいでいるので、掴み掛かることもできない。
あぁ可愛い。

「ええい!今すぐ秀麗を降ろせ!!この変態奇人め!!」
「・・・黎深」

呆れた声は、鳳珠の正面に座る悠舜のものだ。

「あまり大声を出すと秀麗殿が怖がりますよ」
「はっ!」

黎深は慌てて姪を見た。
そうだ、好かれるには笑顔だ笑顔。
きょとんと見上げてくる可愛い子供に向かって、黎深はにこっと微笑んだ。
つもりだった。

しかし極度の緊張と気負いのせいで、それはとても笑顔と呼べる代物ではなく。
びっくりした秀麗は、飛び跳ねて鳳珠の衣にしがみ付いた。

「ほら見ろ。怯えているではないか」
「ううっ・・!ち、違う!今のはお前に怯えてだな」
「どう見てもお前に怯えているんだ、馬鹿」
「何だと!!」

秀麗を間に挟んで、いつもの不毛な言い争いが始まる。
まるで子供の喧嘩。
とても国試を通過した秀才たちとは思えない。

いつも止める羽目になる悠舜は、ズズッとお茶を啜った。
さてそろそろ止めないと、秀麗も可哀想だ。
そうして悠舜がやれやれと重い腰を上げようとした時だった。

鳳珠の膝からぴょんと飛び降りた秀麗が、ぎゃいぎゃい騒ぐ黎深の衣をくいくいと引いた。
むろん黎深はぴたりと大人しくなり、自分を見上げる子供に釘付けになる。

「黎深、屈んでさしあげなさい」
「そ、そうか!」

悠舜の助言に、黎深はささっと腰を屈めて子供と目線を合わせた。
その黎深の額を、小さな手がぺちっと叩く。

「もー、めっ!」

黎深の瞳がぱちくりと瞬いた。
その友二人はと言えば、驚きに言葉も出ない。
しかし小さな秀麗はそんなことにはお構いなしだ。
だって父が前にこのおじさんに同じことをしていたから。

「けんかしちゃだめでしょ!いっしょにあそびたいならいわないとだめよ?」

秀麗は大人びた口調でエヘンと胸を張った。

「まったくもー、あまえんぼさんですねー」

まるでお姉さん気分だ。
鳳珠と悠舜は恐る恐る友人の顔を覗きこんだ。
黎深は、怒っていなかった。

驚いたように額に手を当てて、そうしてへらへらっと笑み崩れた。

「しゅ、秀麗!おじさんと遊んでくれるかい?」

秀麗はにっこりと微笑んだ。
































秀麗は邵可の真似をしただけなんですが、朝廷の人から見たらびっくりもいいとこですよね。
何せ黎深をぺちんとやって、しかもあまえんぼさんとまで言ってのけました。
秀麗も邵可さんも無自覚に凄いといい・・・笑
そして黎深はそれをとても喜んでいるといい・・・笑